ピラカンサこと”トキワサンザシ”の実を毒抜きして食べてみた
突然ですがバラ科というと皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
一般的なところではバラや桜が主で、植物にちょっと興味がある人はモモやリンゴ、ナシ、ビワなどを思い浮かべるかもしれません。
同科にはたくさんの果樹や野草などが含まれ、このことからも古来より人間の身近にあった植物であることが分かっていただけるかと思います。
・・・で、このバラ科には当然皆さんご存じの”バラ”も含まれるわけですが、ほかにも観賞用に使われる身近な植物があります。
晩秋から冬にかけて果実をたわわに実らせる。
それがこのトキワサンザシ(ピラカンサ)です。
本種はバラ科トキワサンザシ属の常緑低木で、美しい実を観賞用とするために庭や街路、公園などに広く植えられています。
わざわざ観賞用と言うだけあって当然、本来は食用にされることのない果実で、試しにネットで調べてみると”毒性があって「下手をすると死ぬ」とか「渋くてとても食べられたものじゃない」とか物騒な意見ばかりが目につきますが、中には「真冬になると毒が抜ける」や「意外とおいしい」というような情報もあり、どうもはっきりしません。
これは自分で確かめるしかないだろう!ということで、今回の記事では実際にコイツを食べてみようと思います。
結局のところ毒なの?
食べるとは言いましたが、もちろん私もまだ死にたくはないので、万全を期して実際に食べる前に情報を整理しておきます。
- 青酸系の毒を含み、食べると中毒する
- 真冬になると毒性は抜ける(?)
- 鳥は普通にこの実を食べているらしい
1に関して、バラ科でかつ青酸系の毒という情報が正しければ、まず間違いなく含まれる毒性分は青酸配糖体(アミグダリン)であると考えられます。
これは青梅などバラ科の未熟な果実に含まれる毒性分の一種で時間経過と共にエムルシンという酵素によって分解され、この時に発生する青酸も徐々に失われるため、そう考えると2.の真冬によく熟した果実は無毒であるというのもある程度納得がいきますね。
また、この青酸配糖体は種の中の”仁”の部分に特に多く含まれるようですが、致死量は大人なら60㎎(未成熟な梅なら数百個程度)と毒性はそれほど高くなく、3.の鳥が食べているというのは種をかまずにそのまま飲み込んでいるがゆえにある程度の量なら無害である、という考え方もできるでしょう(毒性分は違いますが)
ここまでで、あくまで予想ではありますが少量であれば死ぬような毒ではないことが分かったので、いよいよ実際に食べてみましょう。
鳥も食わない真っ赤な木の実
奥に見えるのも同種ですが、手前のものの方がより熟しています。
1月の終わりに収穫のため同じ場所を訪れました。
記事の初めに貼った画像は12月の頭のものですが、当初と比べると若干、果実の色が濃くなっている気がします。
これを採取して何かしら利用してみようと思うのですが、その前にまずフレッシュなままでの食味を試しておきたいところ。
あまりにも不味いようであれば、有毒・無毒に関わらず食べても仕方ないので、少しだけ味見しておきます。
まあ、この何も無い時期に鳥すら食ってない時点でお察しではありますが…
いただきます。
・・・ん?・・・リンゴ?
リンゴの芯かな??
舌に残る渋みと、ごくわずかな甘味と風味。
これはリンゴの芯に酷似しています。
もっとも、食感はなんというかスカスカしていて頼りないですが、味だけで判断すればほとんど差異はありません。
特に美味しい訳でもありませんが、吐き出すほどに不味いわけでもありません。
それほど酷い味ではないことが分かったので収穫。
大量にあったのでもう少し採っても良かったのですが、調子に乗って食べ過ぎると危ないので自重します。
で、この採ってきた実を”どのようにして利用するか”が問題になりますが、今回はバラ科果実の代表的な利用法である果実酒にしてみようかと思います。
なぜ果実酒なのか。その理由ですが、
長野工業技術総合センターの研究成果「青酸配糖体を除去した食用可能な杏仁の製造方法」の開発(pdf)によると、”高濃度のアミグダリンを含んだ杏仁を10~30%濃度のエタノール 水溶液に3日程度浸漬すると、アミグダリンをシアン化水素換算 で 10ppm 以下にまで低減させることが出来た(研究結果より一部抜粋)”とあります。
更にこの研究ではこの後 水に漬け変え→エタノールに浸漬 を繰り返すことにより、アミグダリンの分解によって生成されたシアン化水素すらも低減化させることに成功したとの記載もあるのです。
つまり花梨や青梅など、特に青酸配糖体の含有量の高い果実を酒に漬けた後、果実本体も食用にするのと同じく、このトキワサンザシの果実も果実酒にすることで食べられるようになるのではないかと考えられます。
これはやってみる価値があるのではないでしょうか。
トキワサンザシ酒と酒漬けの果実。
というわけで、まずは採ってきた果実をアルコール度数34%のホワイトリカー(普通に果実酒用として売ってるやつです)に浸漬させました。
これに3日漬けた後、もったいないようですが酒は一度捨て、果実のみを更に2日間水に浸漬。
これを軽く乾燥させた後、やっと通常の工程で果実酒を作るという訳です。
めんどくせえ。
1度目の浸漬はあくまでアミグダリンの分解のためにあるので酒は少なめ。二回目は多めに入れる。
まあでも、せっかくここまで頑張ったことですし、実も勿体ないので最後までやり通しますか。
これが2日目の様子です。
実の色素はかなり落ち、表面が若干シワシワになってきています。
本来なら3日間アルコール漬けにするとのことでしたが、研究レポに書いてあったものより度数の高い酒を使用しているので、急遽、この辺りで言ったの取り出そうかと考えました。
あまり味気ないものになってしまうと結局、食べる意味が無くなってしまいますし。
で、あとはこれを水につけます。
アルコールで消毒されてると思うので、ビンはそのまま水道水でサッと濯いで流用。
このまま更に2日ほど置きます。
数日経ったので最後にこれをもう一度ホワイトリカーに漬けます。
これが終わればやっと食べられるようになるのですが…果たして労力に見合った結果は得られるのか。
~2日後~
画像は使いまわしじゃないよ。
全然変わってねえ。
まあ、一回目に酒漬けにしたときに色素がほとんど抜けてたので予想はしてましたが。
香りもほとんど純粋なホワイトリカーと変わりありません。
果実酒にするならもう少し置いた方がいいかな。
まあなんにしても毒抜きはほとんど済んだはずなので食べてみましょう。
酒の方は・・・予想通り、ほぼただのアルコール。
問題は実の方です。
いただきま~す。
す・・・す・・・・・
スッカスカじゃねーか!!!
もともと食感は悪かったですが幾度もの浸漬によって果汁は出尽くし、まるで砂を噛んでいるような不愉快な感覚のみが舌に残ります。
そしてそんな状態であっても種だけは形が残っており異物感が半端ない。
駄目だこりゃ。
完全に無味に近いのでアミグダリンは抜けているようですがこれじゃあ毒抜きした意味がないよ。
いやワンチャン毒抜きする前の方が美味かったレベルかも。
ピラカンサは完全な観賞用植物でした
非常に残念な結果に終わった今回の記事ですが、まあ”誰も採らないのには色んな理由がある”ということが分かったので良しとしましょう。
一応言っておきますが、これを見て、真似して食べてみた人が出ても責任は負えません。
誰もやらないと思いますけどw
(採ってきた実は、このあと良く洗って畑の肥やしになりましたとさ)
ディスカッション
コメント一覧
属名は、トキワサンザシ属ですが、種名は、トキワサンザシではなく、カザンデマリ(実の形で判断可です)だと思います…
トキワサンザシ属には、大きくわけて3種あります…トキワサンザシ、タチバナモドキ、カザンデマリです…
トキワサンザシは、丸みがあり、黒い部分は、くぼんでいません…
タチバナモドキは、オレンジ色の実がなり、ひと目で判断できます…
カザンデマリは、黒い部分は、くぼんでいます…
カザンデマリが、よく見かけ、多いように思います…
慣れれば、すぐに見分けることが可能だと思います…
桃も、バラ科で、種に毒性があります…バラ科は、種の食用はNGです…また、未熟な実は、青酸配合体が多く、熟すると少なくなるらしいです…(桃は、他家受粉ですので、例えば、白鵬(ハクホウ)と大久保(オオクボ)と一緒に植えないと実がなりません…)
植物の分類体系が変更されていました…
最新の体系は、APG体系(略称)という分類です…
第3版が標準で、さらに新しい第4版も出ています…
科、属、種の分類は、やはり専門家も困難で、学者により変わります…
以前は、トキワサンザシ属でしたが、APG第3版では、タチバナモドキ属になります…
タチバナモドキ属のトキワサンザシや、タチバナモドキ属のカザンデマリ、タチバナモドキ属のタチバナモドキということになります…