辛くないワサビ?山に生える野生の”ユリワサビ”に食用としての価値はあるのか

2020年1月31日

アブラナ科植物はミロシナーゼという酵素を持つために何らかの方法で細胞を傷つけると配糖体が分解され、あの一種独特のツンとした辛みを生み出します。
この特徴は、自然環境下において動物や昆虫からの食害を防ぐために作り出したものだと考えられていますが、人間はこの辛みを逆に利用してワサビや大根などを、あえてすりおろすことによって薬味として使用しているのです。まあ植物からすればたまったものではありませんが。

しかし、どんな世界にも変わった奴はいるもので、本科の中にもほとんど辛みのないものがあります。

ユリワサビ

それがコイツ。ユリワサビです。

この個体は近所の山にある渓流沿いで見かけたものなのですが、初めはデカすぎてフキかなんかだと思いこんでました。が、しかしTwitterなどで他の方に意見を募ったり、自分でもいろいろと調べている内に”どうもユリワサビっぽいなぁ~”と思い始め、葉を実際に齧ってみたところ山葵のような辛みがある訳でもなく、かといってフキのような香りがあるわけでもなかったため一応の同定に至った次第であります。

本来ならユリワサビもワサビの仲間だけあって、かなりの辛みを持つ植物のはずなのですが、どういうわけか全く辛くない個体もまま見られるらしく、今回見つけたものはその筆頭。葉をいくら千切ろうが噛み潰そうが何の個性も感じられません。

正直、ここまで無個性なものをあえて食べるほどの価値があるのかどうかはわかりませんが、ネットで調べてみると”地域によっては(便利な言葉だね~)”お浸しなどにして食べたりもすると書いてあったので、まあせっかく大量にあることですし味見程度に調理してみようと思います。
実際に食べもせずに価値がないと決めつけるのは、野食 (野のものを食べること) を趣味としている人間にとって一番な行動でもありますし。

本当に辛くない?ハッキリしない食味。

という訳で、新鮮なユリワサビを採取するべく再度、山に来ました。
先日見た時には沢山あった大きな個体は枯れ始めていますが、株元からは次々と新芽が出てきています。
で、ここで何となく”小さな新芽だと味は違うのかな?”という思いがよぎり、一本摘んで口に入れて見ると・・・

あれ、割と辛くね?

時間をかけてじっくりと噛み続けていると、なんとツンとくる辛みを感じるのです!
それどころか、アブラナ科特有の風味も鼻腔を抜けていきます。
もっとも辛みの程度は山葵には遠く及ばない程度ですが。

しかし、同じ場所に生えているものでもこれほどの違いがあるのか…あるいは大き過ぎる個体は辛みが薄くなるのか…ハッキリとは分かりませんが、これなら話は別。使い道が一気に増えたので多めに採取しておきます。


ユリワサビに限らず、その日の内に使いきれない山菜類は水につけておけば長持ちする。もともと生命力が強いので。

とりあえずボウルに一杯分。
まずはWikipediaにも書いてある”ユリワサビのお浸し”から行ってみましょうか。

ユリワサビ おひたし
見た目はほとんど変わらない。強いて言うなら茎の緑色がちょっと鮮やかになったかな?

いただきます。

シャキシャキ…シャキシャキ…
嘘だろ。
めっちゃ辛いじゃねーかw

加熱によって細胞が壊れたのか、ふつうのお浸しのつもりで食べていると、まさに山葵を単体で食べたような強烈な辛みが襲ってきます。
これは空きっ腹にこたえるぜ。

正直ずっと噛んでいると涙が出てくるくらいに辛いですが、それとは別に野草特有の若干の苦みも感じてしまうので、そこだけどうにかすれば普通に薬味としても使えるよコレ。いやむしろこの苦みを食材の特徴の一つとしてとらえるならば、単なるワサビとは別の需要も生まれるかも。
苦みって言っても嫌味のあるものではないし。


ノリを散らせば、なお良し。

まあ、どっちにしろ加熱するのが調理法としてはベストっぽいので、今度は茹でてから刻んで、カツオ節・黄身の漬けと一緒にユリワサビ丼に。
黄身の漬けってのは鶏卵の黄身だけを醤油・みりん・白だし(=1:1:1)に漬けたもの(面倒ならめんつゆでも良い)で、単体でも結構ウマい。
・・・で、これにさっきのピリッと感をプラスしてやろうと考えたわけですが。

これが大正解
味が良いのは当然として、思惑通り苦みもアクセントの一つとして収まっています。
ただ欲を言えば少し辛みが弱いかな?辛さを出そうと思うなら、切り刻まずに良く噛んだ方が良いのかもしれない。

そして、この後は

刺身と一緒に食べたり。


ちょっとピンボケ。まだまだだね。

巻きずしに紫蘇と共に巻いたみたり。

しましたが、やっぱり薬味的な利用法が総合的にベストなんじゃないかなーと思います。
お浸しもは良いんですが、あまりにも辛すぎた。
好きな人は好きかもしれないけど。

まあ、なんやかんやで結構ウマいし、群生もするので、見つけたら食べてみても損はないんじゃないでしょうか。